短編5

□食い違ったのはきっと最初から
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「おはようございます天女さま!」


何故か空から落ちてきて、これは死ぬなと腹をくくったらなぜか生きてて、天女と呼ばれ慕われる毎日。


「っ、おはようございます、みなさん。」


ここ数日ですっかり様になってしまった営業スマイル。
彼らが望むような天女像を演じた結果の、本来の自分とは正反対のおしとやかで丁寧で庇護欲を抱きたくなるか弱く可憐な女の子。

馬鹿な自分の姿に、吐き気がしてたまらない。


『―――――だ。天女さまとかいう馬鹿みたいなのではなく名前で呼んでほしい。敬語もいらない。よろしく。』


あの時私は名前を言った、素を出した、親しくなろうとおもっていた。


『はいよろしくお願いします、天女さま!!』


でも、諦めるのにそう時間はかからなかった。
どこから間違えてたのかなんて、そんなのわかりきっている。



 ・・・< 食い違ったのはきっと最初から >・・・



元々器用な性格だったこともあり、彼らの理想像を演じることはそう難しいことではなかった。
何も感じず淡々と与えられた作業をこなしているのだと思えば、本来の自分との差に発狂することもなく、今更絶望する機会も逃してしまった。


天女さま天女さま天女さま

今日もお美しいですね

お食事ご一緒してもよろしいでしょうか

今度町に一緒に出かけませんか

天女さま天女さま天女さま


全く、どいつもこいつも天女さま天女さまうるさいったらありゃしない。
なーんて、言った日には彼らはどんな顔をするのだろうか。騙されたといって私に刃を向けるのだろうか、信じないと現実逃避をするのだろうか。いろいろと予想はあるのだが、素の私を受け入れ認める者などきっと彼らの中にはありはしない。
忍者を目指しているくせに、見知らぬ怪しい者を簡単に受け入れて、ただの人間を天女だと囃し立てて、理想の像を崇拝して、真実を見ようとしない。
何て愚かな彼らと、・・・・・・・そして私。


「私はね、本当は君たちが思ってるよりもずっと醜くてずるくて愚かでどうしようもないほどに汚い人間なんだよ。」


天女さまと敬まわれ、彼らの望む天女像を好きでもないのに演じる。
やりなおせたら、何て・・・・まぁ、今更どうしようもないし、どうやり直せというのだろうか。
ゲームのように全てをリセットして“さいしょから”にしない限り、この歪んだ関係は変わりはしないのだ。




 後書き
救いをいれようとしたはずが結局救いようのない話に。
ゲームだったら最後のほうにコンテニュー画面がでるところ。
執筆時期 H24,08/16

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