短編5

□僅かな平穏を
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「マスター、朝だぞ起きたまえ。」


もぞもぞと身体を動かしながら、覚醒しきっていない半開きの目で声の主を探せば、真っ赤な彼を見つけるのはとても簡単だった。


「おはよう、マスター。やっとお目覚めかね?」

「ん、おはよう、アーチャー・・・・・」

「まてまてまて、それはぬいぐるみだ。早く起きろ、マスター。」


あれ?首を傾げながら目を擦ると、目の前にいるアーチャーだと勘違いしていたものは赤いずきんを被った黒猫のぬいぐるみ。
では、アーチャーはどこだろうと探そうとすると後ろから咳払いが聞こえ振り向くと呆れたアーチャーの姿。あははは、とへらへら笑ってもう一度彼に挨拶しようかと思うと、腹部から聞こえてくる虫の音。


「アーチャー・・・・・お腹空いた。」

「やっと目覚めたかと思ったらそれかね?やれやれ・・・・今日は焼き鮭にそぼろ入りの厚焼き卵、麩の味噌汁にほうれん草のお浸しと納豆だ。ほら、顔を洗ってきたまえ。」

「ふぁあああ・・・・はーい、お母さん」

「誰がお母さんだっ!!」


アーチャーの怒鳴り声を背に、顔を洗うためにとぼとぼと布団から出て歩いていく。
部屋中に漂ういい臭いにお腹が再び音を鳴らした。



・・・< 僅かな平穏を >・・・



「んぐ、んぐ・・・・。相変わらず美味しいね、アーチャーの作ったご飯は・・・・んぐ。アーチャー、おかわり頂戴。」

「それは何よりだ。マスターは小柄だからもう少し肉をつけた方がいい。このぐらいでいいかね?」

「肉って・・・それって何気にセクハラじゃないのかな。ん、ありがと。」


何とも平和なことか、思わず聖杯戦争真っ最中であることなど忘れそうになる。それを凛に言おうものなら「アンタ馬鹿じゃないの!?」ではじまり「いくら記憶がないからって自覚なさすぎなのよ!!」と怒られるのであろうと想像して、小さく笑みがこぼれる。


「ん?どうかしたかね、マスター。」

「いや、平和だなって思っただけで・・・・ぁ」


しまった、と口を閉じたが時すでに遅く、大きく溜め息を吐いたアーチャーにビクッと小さく肩を揺らす。
きっとアーチャーのことだから「マスター、君は本当に生きるか死ぬかの戦いに参加しているという実感がないようだが私達は聖杯戦争という・・・・」とぶつぶつと言うに決まってる。ほら、予想通り言い出して・・・


「はぁ。本来なら文句の1つや2つ・・・・と、いいたいところだが。」

「え?」

「我がマスターは未だに寝ぼけて聞いているかも定かではないし、きっと言ったところで聞き流すに決まっている。それに数少ない平穏な時間だ、たまには少しだけこういうのに浸るのも・・・・まぁ、わるくはないか。」


小さく笑ったアーチャーの姿が何だかやけに幼く見えて、思わず笑ってしまえば。眉を顰めたアーチャーに「さっさと食事をしたまえ」と起こられるのはあと数秒後。
あぁ、この時間がもっと長く続けばいいのに。




 後書き
Extraって朝ごはんとは夕飯とかサーヴァントが作ってくれるんだよね。
キャス狐は良妻狐だし、アーチャーは家政婦だし、美味しいご飯なんだろうな。
赤セイバーは王様だし、一緒に作るか横で「奏者よ今日は何を作るのだ?」って聞いてきそうなイメージ。
ギルさま?ギルさまはあれだよ、宅配サービスとかだよ。
執筆時期 H25,01/05

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