短編6

□第十七段
1ページ/3ページ



ガリッ、ガリガリガリッ


少女ははさみを持ちながら刃の部分で机に傷をつけていた。ただ黙々と、その作業に集中しながら。
少女の周囲の人の気配はない、数時間前まで生徒でにぎわっていた教室も今は少女ただ1人。すでに陽は傾き、橙色の陽が彼女を照らしては影を伸ばす。


ガリッ、ガリガリッ


少女はただ黙々とはさみで机一面を傷だらけにして・・・否、机一面にはさみで何かを描いていた。
大小いくつもの円、三角や四角、文字、長短いくつもの線。一瞬、適当に乱雑に描かれたと思われる細かい傷の記号や文字、それらは机一面を見れば1つの絵と・・・・メッセージとなっていた。


ガリッ


そしてそれは完成した。
完成したそれを見下ろしながら、少女は満足そうに微笑み机の中央にはさみを突き刺した。まるで完成したそれに無意味に痕をつけることで本当の完成だというように。
そして少女は去る。机のメッセージを残したまま、はさみを突き刺したまま。机の横にかけてある鞄を持たず、手ぶらのまま少女は教室を去っていく。

少女が去り、誰もいなくなった教室は小さなノイズ音をたてて修復されていく。
少女が机に傷つけたメッセージは、まるでそれ自体がなかったかのように、元の姿に戻っていく。机に突き刺さったはさみ、机の横に掛けられた鞄は、分解されその姿を消していく。
まるで、少女がこの机にいたという事実を消すように、少女という存在を失くすように。

そして傷だれけの机は消え、修復された机がポツンと残る。真ん中に小さな傷をつけた、机のみが。



 ・・・< わたしはここにいた >・・・



舞台は霊子虚構世界「SE.RA.PH<セラフ>」。
聖杯を手に入れるために、参戦した電子ハッカーの数々。しかしその半数以上は初戦も行なわないまま、予選で脱落し死を迎える。
4日目の放課後、全てを思い出し、全てを知った一人の電子ハッカーの少女は自身が予選にて脱落するであろう運命に気付き、最後の悪あがきの痕を残す。

刻まれたメッセージは少女の小さな小さな物語の一部。予選で命を落とした少女の短い物語。
友達ができました。学校に行きました。学食がおいしかった。先生がおもしろかった。部活は楽しかったです。

少女は無人の教室を後にして、予選の最終会場へと足を向ける。
自分が残した痕が消えていくとわかっていながら、それでも少女は痕を残せたことに満足し微笑んで、その扉を開ける。


『わたしはまだ死にたくない』


それは少女の小さな抵抗。
突き刺さったはさみが消え、刺さっていた場所に、その机に唯一残った小さな傷。
その傷が、そのメッセージが、少女の小さな、そして大きな、抵抗と存在証明の痕だった。




 後書き
夢小説なのか、モブ小説なのか。夢小説と言い張りたい。
執筆時期 H25,01/30
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ