短編

□一目
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昔から人に気付かれないということに関しては得意だった。
かくれんぼで見つかったことなんて一度もなかったし、授業中寝ていても起こされることもなかった。よく言えば気配を消すのが上手い、悪く言えば影が薄い。
そのお陰か、授業中寝て放課後までそのままなんてよくあることで、それが日が暮れ空が暗い中1人教室にポツンといる理由である。


なんだこれは。


声に出さないまでも驚愕と困惑の息が窓ガラスを曇らせる。窓から見下ろした校庭の真ん中でぶつかる赤と青。まるで格ゲーをみている気分だ。
赤い人の少し離れたところに誰かいるのに気づき目を凝らす、どこかで見たことのある・・・


「誰だっ!?」


青い人の声が響く、校庭からいくらか離れた此処では声なんてそうは聞こえないはずなのに・・・思わず体が強ばるがどうやら彼が言っているのは私のことではなく、私以外に盗み見している誰か。その誰かが校舎内へと逃げていき、そして追いかける青い人。
一体何がどうなってるんだろうと確認しようと扉を開けようとしたとき、バタバタバタと廊下の奥から足音が聞こえてくる。

第六感が告げる


――見つかってはいけないあれは危険だ、あれに見つかっては■される。


六感に従い、息を潜めて廊下から聞こえてくる音に耳を傾ける。逃げる足音、それを追う足音。最低限気配をなくして、彼らが通り過ぎるのを待つ。


バタバタバタッ


ひとつめの足音が私が隠れる教室の前を通り過ぎた。扉の隙間から微かに見える去っていく誰かの背中。そしてそれを見ていた私の視界を遮ったのは青と


(・・・っ!?)


獣のような赤い瞳。
まるで金縛りにあったかのように目が離せない。


タッタッタッ・・・


青い後ろ姿が遠ざかっていく。

それから何秒、何分たっただろうか。短かった気がするし、長かった気もする。一気に緊張の糸が切れ、扉に体を預けて震える体を抱きしめる。
脳裏に浮かぶのは赤い瞳。何て綺麗な、なんて真っ直ぐな。名も知らぬ赤い瞳のあの人に会いたい、なんて思ってしまうのはあの瞳に魅せられてしまったから。



 ・・・< 一目 >・・・



(今、誰かいたな。まぁ、あの野郎も気付いてねぇみたいだし・・・運のいいやつだ。)





 後書き
誰も気付かなかったもう一人の目撃者。息を潜めて、彼女は名も知らない誰かに恋をした。
みたいなイメージでお送りしました。
執筆時期 H23,01/30
修正時期 H23,08/30

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