Dream 1

□伝える
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この空間は酷くざわついていて、小さな物音は耳を凝らしてもはっきりと聞こえない。でも彼女の小さな寝息は、はっきりと聞こえるのだ。案外、正直に反応するんだな。


自習という時間は、暇でたまらないもの。以前までなら確実に屋上にでも行ってるところだが、どうやら隣の席の女が気になっているらしい俺は、大人しく席に座っている。

普段はよくしゃべるこいつは、数分前に机に顔を伏せてから起きない。そういえば今日は、欠伸をしてるところを何度も見た気がする。



(寝顔、可愛い…)



思わず頬が緩むのを感じた。慌てて机に肘をついて口元をおさえる。こんなのミハエルに見られたらヤバいからな…。

そう思いつつも、なんだか暖かい気持ちになって目を伏せた。



「――…ア、」



その時、彼女の口から小さく言葉が漏れた。起きたのかと思って其方に視線を戻しても、彼女の目は閉じられたまま。



「アル、ト」



寝言。まさか名前を呼ばれるなんて思ってなくて、一瞬驚いて、夢に俺が出てんのかって嬉しくて、少し恥ずかしかった。


寝てるなら、何してもわからないだろ。恐る恐る頭に触れたら、髪がさらさらと指の間をすり抜けた。

そのまま、髪を耳にかけて、少し、距離を近づけた。




「…好きだ」




耳元で、そっと。今までの自分なら絶対にありえないほど、すんなりと。多分、まだ面と向かっては言えないだろうこの言葉を。


きっとこのざわついた教室が自分の声をかき消してくれるはずだから。







――――――

近くの席の子が、寒さで身体を小さくしながら寝ているのが可愛くて、つい。



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