小話

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思えば今まで生きてきて碌な事がなかった。
二人の兄に散々こき使われる毎日が嫌で実家から遠い高校を選んで一人暮らしをする事にした。
頭の出来はそこそこいいようで特に勉強せずに入った私立男子進学校だったが、周りは糞真面目なガリ勉ばかり。
俺のようなずる賢いだけで生きてきた奴など一人もおらず、気の合う人間とは出会えなかった。
途方に暮れるほどつまらない2年間を過ごして、後一年の辛抱だと気合いを入れたその時、親から電話がきた。
俺の家‥一応貴族の端くれだが、遂に没落したと。
それで、俺の学費が払えなくなったという報告だった。
そんな訳で、大人しく実家に帰り近所の県立DD高校に転入する事になったのだが‥‥‥‥‥
‥今思えば、この出来事こそが俺の苦労人生の本当の幕開けだったのだ。
 

 
着慣れない制服に身を包み今度から俺の担任になる‥ラルゴンキンという先生の後を着いて廊下を歩く。
いくつかのクラスの横を歩いたがこれこそ学校のあるべき姿だろう。
適度に騒がしい朝のHRの時間。
前の学校では誰もが朝のHRの時間でさえ勉強をしていて息苦しかったのを思い出す。
前に視線を戻すと、やけにガタイのいい体が振り返った所だった。

「ここが3年C組だ。
一際騒がしいクラスだが馴染むのに苦労はしないだろう。
名前を呼んだら入って来なさい。」

自分が有りがちな場にいる事を自覚した。
大人しく扉の外で名前を呼ばれるのを待つ。
視線を下に向けると靴紐が解けているのが見えたので、縛り直すためにうずくまった。

「貴様そんな所で何をしている?」

後方から低音の声が聞こえた。
もしかして俺の事を言っているのかもしれない。
こちらに近づいてくる足音を耳にしながら振り返って見上げた。
そこには今まで見たこともないような美形の長身男子が立っていた。
あまりに衝撃的な外見の為に言葉を失っていると、何故が襟首を捕まれ軽々持ち上げられた。

「見ない顔だな‥
もしかして貴様が転入生か?」
 
持ち上げられたまま上から下までジロジロ見られて、最終的に目線を合わせる。
持ち上げられないと対等にならない視線の高さにほんの少し敗北感を感じた。
プライドを軽く傷つけられて睨んでみると、その男子は面白い物を見つけた子供の様に表情が煌めいた。

「私に牙を向けるつもりか?面白い。
私はこの学校のばんちょ「聞いてるのか!ガユス・レヴィナ・ソレル!!」‥ぅ、」

 

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