立海(幸攻)小説

□風引き
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「…という事だからノートとかよろしくね、蓮二」



蓮二は「わかった」と言って電話を切った。

俺は携帯を閉じて、腰に抱きついている恋人に声を掛ける。



「さて、ちゃんとご飯食べるね?」



俺がそう言うと、恋人は嬉しそうに笑った。





*****





朝が弱い恋人に、いつもの様にモーニングコールを掛けると

鼻声で、時折咳をして、だるそうで。

俺は大学に向かう前に、一人暮らしをしている恋人の家を訪ねる事にした。

アパートに着いてインターホンを押す。

ドアを開けたのは、いつもなら家を出る時間なのに、まだジャージを着ている恋人の姿。

今日は学校を休む気満々らしい。

恋人はフラフラと俺の体に寄りかかり



「…ありがと」



と言った。

このままほおって学校に行くわけにもいかず

とりあえず俺は中学3年生の頃から身長差の変わらない恋人を背負い、ベッドまで運ぶ事にした。


恋人をベッドに運んでから、あたりを見渡す。

冷たく冷やされたタオルや、スポーツ飲料水、風邪薬などは見当たらない。

それを予想していた俺は、アパートの近くのコンビニで買ってきた熱を冷ます効果のあるシートを恋人のおでこに貼り

スポーツ飲料水2リットルのペットボトルと風邪薬をベッドの横に置き

コンビニに売っていたおかゆを温め、恋人に差し出す。



「ほらマサ、ご飯食べて風邪薬飲んで、ちゃんと寝るんだよ。学校帰りまた寄るから」



俺がそう言うと、マサは俺の腰に抱きついて言った。



「…嫌じゃ」

「なんで。ご飯食べなきゃ治らないんだからね」

「ゆき、ここに居て」

「俺これから学校。帰りまた来るから、ね?」



マサの肩に手をかけて、なんとか引き離そうと試みるけど

一向に離す気配はない。


風邪、引いてるんじゃなかったっけ?

こんな時だけ力がでるんですか?


なんて小さな疑問は置いておこう。

俺だって病気の時は寂しかったし、不安だったし、誰かに傍に居て欲しかった。

だから、マサも寂しいんだと思う。

…いつもだけど。


俺はわざとらしく大きくため息を吐いて、ポケットから携帯を出した。

そして、同じ大学に通う、中学からの付き合いで

昨日も電話した気がする人物に電話をかける。



「あ、もしもし、蓮二?」



俺が電話の相手の名前を呼ぶと、仁王は俺のお腹辺りに埋めていた顔をぱっと上げた。

そして、俺の顔をじーっと見ている。



『どうした?もうすぐ授業が始まるぞ』

「あーうん、あのね、今日休む」

『何かあったのか?』

「マサが風邪引いたんだ。いま家に居るんだけどさ」

『…離してくれない、か?』

「…ご名答」

『だいたい想像がつく。お前まで風邪を貰わないようにな』

「うん、気をつける…という事だからノートとかよろしくね、蓮二」



蓮二は「わかった」と言って電話を切った。

俺は携帯を閉じて、腰に抱きついている恋人に声を掛ける。



「さて、ちゃんとご飯食べるね?」



俺がそう言って、仕方ないなぁと笑って見せると

マサは「うん」と頷き、嬉しそうに笑った。



end.



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