立海(幸攻)小説

□想いの想い
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「…また喧嘩したんですか?」



そう言って、柳生は大きくため息を吐いた。

仁王はよく、恋人である幸村と喧嘩をする。

その原因は些細な事であり。

言い争いをするような喧嘩ではなく、仁王が一方的に幸村にヤキモチを焼いている

あまり喧嘩として成り立っていない喧嘩。


(ややこしいですね…ほんとに)


柳生は二回目のため息を吐く。

仁王は眉をひそめ、柳生を見た。



「…お前さん、何しに来たんじゃ」

「仁王君を探しに来たに決まっているでしょう。ダブルスが出来ないじゃないですか」

「…」

「ちなみに幸村君からのお願いですから。断れませんでした」



仁王は眉間のしわを深くし、柳生から目をそらす。

幸村の元に仁王を届けるという重大な任務を背負っている柳生は

仕方ないと呆れながらも、話を聞く事にした。



「…で、今回は何が原因なんですか」



幸村は優しい、格好良い、頭が良い、と三拍子揃っている為女子から人気があり

部活には毎日、応援に来ている子達が居る。

しかしそれは仁王も同じで。

優しさは欠けているとしても、格好良い、頭が良い、と女子からの人気は高い。

だからお互い様じゃないかと柳生はいつも思う。


(まぁ、幸村君の場合レギュラーからの人気も絶大ですがね…)


自分もその一人だという事は置いておいて、柳生は仁王を見た。

仁王の表情はだんだんと暗いものになっていく。



「…ゆきは、俺なんかが居なくても大丈夫なんじゃ」



仁王は自分の考えを口にして不安な心が高まったのか

目に涙を浮かべた。

そしてそのまま喋り続ける。



「俺はゆきが居ないと生きて行けん…でも、ゆきの周りには沢山人が居て」



柳生は初めて仁王と会ったときの事を思い出す。

いつも飄々としていて、つかみ所のない人だった。

それはいまでもそうだけれど、今の様に深い闇に飲まれる事がある。

幸村と付き合い始めてからそれを知った。

ただそれを幸村には見せない。


(幸村君は気づいているんですがね)



「…ゆきは、俺じゃなくても」



そしてこの言葉にたどり着く。いつもの事。



「…だとしたら、何故君を探してきてくれと頼まれるんですか」

「…本当に必要だったら、自分で探しに」

「それは私が止めたんです。彼は部長、彼が居なかったら部活が始まらないでしょう」



全て本当の事を伝える。

親友の幸せの為、想いを寄せている人の幸せの為。



「今も君が大好きな幸村君は、君の事を心配しているんですよ」

「…」

「好きな人が不安な想いをしているんですよ」

「…」

「好きな人にそんな顔をさせて良いんですか?」

「…嫌じゃけど」



柳生は仁王の手をぐいっと引っ張り、無理やり仁王を立たせた。

仁王は驚いた様子で柳生を見る。



「幸村君も君も笑っていてくれないと、私が報われないでしょう?」

「…お前さん、意外と頑固じゃな」

「幸村君の為ですから。それと、君の」

「…素晴らしい親友を持ったもんじゃ」

「えぇ、そうでしょう」



柳生が仁王の手を離すと、仁王は笑い始めた。

それでいい、と柳生は思う。

仁王が笑えば幸村が笑ってくれる。

幸村が笑えば仁王も笑う。

そんなループに、胸を痛めた時期もあった。

でも今はそんな二人を見ているのが幸せで、その笑顔の為なら身を削ろうと思っている

そんな自分に柳生は苦笑した。





お願いだから幸せで居てください

私の好きな人の為に

私の親友の為に


そして


私の為に



end.



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