青学リョ小説
□君という十字架
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青学の天才なんて言われて、ちょっといい気になってたかな、と。
初めてそう思ったのはリョーマと試合をしたときだった。
もちろんそれまで何回もリョーマの試合を見ていたし、関心だってしてた。
でも心の何処かには ”まだ勝てる” という思いがあって。
試合が出来るって知ったときは ”どれくらい楽しませてくれるか期待してるよ” その程度。
やっぱり僕はいい気になってた。
いざ試合が始まると、リョーマは期待以上のものを見せてくれて。
ゾクゾクした。
それは僕が初めて本気になれた瞬間。
こんなスリル、滅多に味わえない…
リョーマには負けてはいけないと思った。リョーマより強くあろうと。
彼よりも上の存在であり続けたい。
彼の頭の片隅に、僕が居続けられるようにと強く願った。
僕はその試合からリョーマに興味をもって。
リョーマもその試合から僕に興味をもって。
二人の求めているものが同じと知ったとき、僕らは付き合い始めた。
それからの日々は本当に幸せだった。
リョーマが傍にいる事が嬉しくて、毎日が楽しかった。
付き合ってみると、リョーマは意外に素直で、外見からは想像がつかないけど実は男らしく、でも甘えるのが好きで、考え方もまだ幼くて本当に可愛くて可愛くて。
それまで何にも執着せず、誰にも執着せず、後腐れない関係を好んだ僕が。
リョーマが生活の中心だった。
でも終わりは突然やってくる。
それはリョーマと喧嘩して1週間が経った頃だった。
今じゃその原因も思い出せないほど、些細な事での喧嘩。
あの時僕がもっと大人で、もっと冷静で、謝る勇気を持っていたら。
…そんな後悔を何回も何回もした。
でもそのときは対等に喧嘩してて、絶対謝るものかと。
部活では口も利かないし、目もあわせない。
本当にイライラしてた。
そんなとき帰り道で同じクラスの、名前しかしらない女の子に声をかけられて。
ほんの出来心だった。
顔も嫌いじゃないし、体もきらいじゃないし、そんな程度。
僕は自分の中のイライラを吐き出すためにその子を利用した。
後でその子が本気になっちゃって、色々大変だった事は覚えてる。
でもそんな記憶が薄れるくらい衝撃だったこと。
リョーマがその事を知っていた。
喧嘩して2週間。
口も利かない目もあわせない電話もメールもしない。
だからリョーマは僕の事を気にしていないと思ってた。
それが敗因。
僕がリョーマを密かに気にしていたように、リョーマも僕を密かに気にしていた。
僕がリョーマのことを知っていたように、リョーマも僕のことを知っていた。
ただそれだけ。