青学リョ小説

□暖かい君の腕
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「…ん…」

「…リョーマ…大丈夫?」


真っ白な天井。
消毒液の臭いがする。


「保健室だよ。今先生出ちゃったんだけど、呼んで来ようか?」


そう言って英二が立ち上がる。

嫌だった。
状況は良く飲み込めないけど、今一人になるのは寂しかったし。
英二が居なくなるのが嫌だった。


「や…だ」


皆まで言わなかったけど、「此処に居て」とお願いするように俺は英二の学ランの裾を掴む。
…英二は困ったように笑ってベッドの横に置いてあった椅子に腰掛けて。
俺の頭を優しく撫でた。



−−−−−



(…具合悪い…家出るんじゃなかった…)


俺、越前リョーマは、通学路の途中で身動き取れずにしゃがんでいる。
今、最大級に具合が悪い。


(…せっかく今日は遅刻じゃないと思ったのに…そんなことより…)


とりあえず学校に行くか家に帰りたい。
今すぐにでも横になって楽になりたい。

でも動けない。


(今動いたら吐く、絶対吐く…うー…)


具合が悪いからなのか、自分の思うように動けないからなのか。
それとも心が弱っているからなのか。

悲しいわけでもないのに涙がこ零れそうになる。


もう駄目だ、とその場に座り込もうとした時


「オチビ!?」


聞き覚えのある声が、足音が近づいて来る。
今自分がしゃがみこんでいる場所は、学校への近道。

英二と俺しか知らない道。

聞き覚えのある声に安心したのか、目に溜まっていた涙が零れ落ちる。


「…リョーマ、大丈夫?」


英二は俺が具合が悪いのが分かったのか、声のトーンを落とし優しく背中をさすってくれた。
と、思った次の瞬間、俺の体がふわっと浮く。


「不安だったね…すぐ楽になるから、頑張れる?」


俺は力なく頷く。

英二は俺のことをしっかり抱きかかえて背中をさすりながら、急いで学校に向かった。
こういう時の英二はホントに頼もしい。

常に声を掛けてくれて。
常に気遣ってくれて。

愛されてるなぁって思った。

でも具合が悪いのには変わらなくて、俺はソレから逃れたくて。
英二の腕の中で意識を手放した。



−−−−−



俺が意識を手放した後、英二は保健室に運んでくれて。
俺の目が覚めるまで、英二はずっと此処に居てくれたらしい。


「リョーマ、つらい?」


喋らなくなった俺を心配したのか、エージが顔を覗き込む。
俺を此処に運んでくるのも、ずっと傍に居るのも大変だったろうに。
まず俺の心配をしてくれる。


「…寝たらちょっと楽になった…ありがと、英二」


そんな英二が愛おしくて、本当に有難くて。
俺は心の底からお礼を言った。


「…良かった…先生戻ってきたら、家に送ってあげるからね」


英二は微笑んで俺の頭を優しく撫でる。


「英二、ぎゅってして?」


急に甘えたくなった。
こんなにも自分を愛してくれてる人に。


「…良いでしょう…オマケも付けちゃう☆」


そう言って英二は俺の横に寝転がり、腕枕をするように俺を抱きしめ。
ぽんぽん、と背中を叩いた。

その腕はとても頼りがいがあって。
その腕はとても温かくて。

俺はうっとりと瞼を閉じる。


「…英二…ありがと」


いつもなら恥ずかしくて言えない言葉も、今ならなんでも言える気がした。


「…うん」


俺の事を一番に考えてくれて、俺のことを愛してくれる君が。


「…大好き」


英二は何も言わなかったけど。
俺を抱きしめる温かい腕に少し、力が入るのが分かった。


俺は英二の温かさを感じながら。


もう1度、眠りにつく。



end.



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