青学リョ小説

□これからも、憧れ
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「越前、今日一緒に帰らない?」




その言葉をしぼり出すのに、僕的に凄く勇気をふりしぼったわけで。




「良いっスよ?」




なんて躊躇いも答えられると、僕の苦労はなんだったんだ…と思ってしまう。

いや、凄い嬉しいんだけどね?




「でも不二先輩、バスじゃなかったでしたっけ?」




この質問への対策は完璧だった。

なんてったって、朝から口実を考えていたんだから。




「今日は買い物頼まれてたから歩きなんだ。越前の家の方向だからさ」




越前は納得したようで、テニスバッグに荷物を詰め込む。

いつも越前は桃に送り迎えして貰ってて…


それが凄い羨ましかったんだけど、自分は家の方向も違うし

わざわざ越前の家まで行くのも、多分、というか凄く不自然だと思ったので、なかなか行動に移せなかった。



一緒に帰る事が憧れだったなんて夢が小さいって言われそうだけどね。




「お待たせしました」




越前から声を掛けられ、現実に戻る。




「あ、うん。じゃあ帰ろうか」

「っス」




僕と越前は並んで歩き始めた。



一緒に帰っていて気づいた事。

越前は結構、喋る。

部活の時はあんなに寡黙なのにな…それほど集中しているんだろうか。

…越前の新たな一面が見れたようで嬉しかった。




「不二先輩は部長とホントに仲良いんスか?」

「何その質問…」




思いがけない質問に、俺は笑ってしまう。

そんな事思われてたんだ、とか。

少しは僕のこと気にしてくれてたんだ、とか。

可笑しくて、嬉しかった。




「仲は良いと思うよ?」

「そうなんスか?あんまり一緒に居るとこ見たこと無いから、そうでも無いんだと思ってました」

「まぁ、いつも英二が居るからね…」

「菊丸先輩、すぐ抱きついてくるからな〜…不二先輩に用事があっても近づけない」




それは

英二が居なかったら

越前の方から僕のほうに来てくれるって…こと…だよね?





「だから不二先輩から話しかけてもらえると、とても助かります…菊丸先輩が居ない時」




それは

もっと話かけても良いってこと…だよね?



なんか自分に良い様に解釈してる気がするけど、今はそんな事どうだって良かった。




「…じゃあさ、また一緒に帰ろうよ。部活だと、英二が居ないって言うのは難しいじゃない?」




一緒に帰ろうって言うよりも勇気の必要なこの言葉。




「もちろん、良いっスよ。不二先輩と帰るの、楽しかったし」




いつの間にか、越前の家が見える所まで歩いてきていたらしい。

舞い上がってて、全然気づかなかった。

越前と一緒に居られる時間が終わるのは寂しいけど、でも。




「じゃあ、不二先輩。また明日」




また今度があるなら…と思ってしまう。

それだけで嬉しくなってしまう。




「うん、また明日」




今日は一歩前進出来た…よね?

君の心に僕を残せた…よね?



君が楽しんでくれるなら、僕は勇気を振り絞って君を誘うから

その時はまた、なんの躊躇いも無く、誘われてね…?




「…あーちょっと、女々しいな」




いつか全ての勇気を振り絞って

好き

と言えるその日まで。



end.



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