氷帝小説

□不安の答えは…
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「なぁ景ちゃん、俺らこれからどうなるんかなぁ」


別に口に出すつもりなんてなかった。


「…はぁ?」


跡部は怪訝な表情を浮かべる。

高校3年生。
受験する大学も決まり、部活も終わり、勉強に追われる毎日を送っていた。
まぁ勉強に追われると言っても跡部も俺も勉強は出来るし。
こうして予定の無い日は二人っきりで会ったり、勉強したりして。
デートだってするし、第一希望の大学も、学科は違うけど一緒だし。

なにも不安はないはずなのに。


「…いや、なんでもない…忘れて」


そうだ。不安に思うことなんてなにもない。
なのに…凄く焦っている自分がいる。


「それがなんでもないって顔かよ…もうちょっとマシな嘘はつけねーのか?」


此処は俺の部屋。

跡部は今まで座っていた椅子から立ち上がり、俺が座っていたベットに寝転ぶ。
跡部と向き合うようにして俺も寝た。


「…で、なんなんだよ?今なら聞いてやらなくも無い」


跡部は意外に面倒見たがりで寂しがりで甘えたがり。
俺は悩みなんて滅多に言わないから、嫌に嬉しそうにしている。


「俺がほんまに悩んでるっちゅうに…何楽しそうにしてんの、景ちゃん?」

「だってお前めったに悩み事とか相談しねーし…」


そう言ってしゅんとする跡部を抱き寄せて。


「いや、なんかなぁ…なんか日に日に焦ってくんねん。何に焦ってるのかは自分でもわかんないんやけど…」

「どういう風に焦ってくんだよ?」

「うーん…なんかこうやって跡部と過ごせる時間がもう来ないんやないかーとか?」


俺の口調も次第に疑問系になってくるけど

思ったことを跡部にひとつひとつ伝えた。


「景ちゃんとと会える時間が減るのが嫌。離れるのが嫌。こうして抱きしめる時間が減るのが嫌や…」


話してるうちに、自分が焦っている理由とか、不安に思っていることが明白になってくる。

大学に入る事の不安とか。
新しい環境に入る事の不安とか。
今まで毎日跡部に会っていたから、会える時間が減るとか。
そんな些細な不安からの焦り。

自分は考え方も振舞いも大人だと思ってたけど…
やっぱり子どもなんだな。


「景ちゃんとずっと一緒に居たい」

「…あのなぁ…」


跡部の声は明らかに呆れていた。
それはそれで傷つくけど、跡部の意見も聞きたいから、俺は黙って聞く事にする。




「何バカな事言ってんだお前。ずっと一緒に居たい?そんなこと当たり前だろ」




その意見はいかにも跡部らしくて。
逆に俺がきょとんとしてしまった。



「会える時間が減るのが嫌だったら俺に会いに来い。離れるのが嫌だったら、俺がどこにも行かないように抱きしめてろ。」

それで済む話じゃねぇか。



そう言って跡部は俺を抱きしめる。
跡部の言う事には説得力がありすぎて…
俺の心のモヤモヤも、不安も焦りも、すべて消えてしまった。


「あ、ははは…景ちゃんにはかなわんなぁ…」

「不安はなくなったのかよ?つーか、俺が原因かよ?…なんかムカつく」


跡部はブーとふくれて。
それが可愛くて愛おしくて…俺は跡部を抱きしめ返す。


「それほど愛してるってことで…許して?景ちゃん」


…しかたねぇな


ぽつりと呟いて。

俺たちはキスを交わした。


−−−−−

おまけ

「つーか、俺も大学入ったら大学の近くにある親父のマンションに住もうと思ってたし。お前も来れば良いんじゃねぇの?」

「そうしたいけどなぁ…家賃とか…あーでも景ちゃんの部屋の隣とか絶対住みたいわ…!」

「お前…俺と一緒の部屋は嫌だって言うのか…?」

「…え、あ…!?そういう意味やったん!?」

「もーいい。もー知らない。お前なんか部屋に入れてやらねぇ!!」

「いや、ちょっと待って!住む!住む!住みたいです!!!」

「時間切れ!絶対駄目だ!!」

「…跡部と一緒に住めるなんて夢みたいや…!」

「だーかーらー!」

「あーもーホンマうれしい!大学からも一緒に帰って…買い物とかして…」

「大学受かるなんて決まってねーだろ」

「えー景ちゃん大丈夫やって。絶対受かる!」

「お前がだ!!!!!」



end.



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