氷帝小説
□感情〜Feelings that are influenced〜
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『ゲームセット!ウォンバイ越前!』
終わった。
去年準優勝だった関東大会。
今回は・・・第一戦敗退。
去年の関東大会には出れなかった。
今年、虎視眈々と狙ってたレギュラーの座に立てて。
やっとの想いで試合に出ることが出来たのに。
青学1年ルーキーにたった今負けてしまった。
−−−−−
「・・・跡部部長・・・すみませんでした・・・」
負けた事が理解できない。
負けと言う事実はどうやったって変わらないけど。
なぜ自分は負けた?なぜ自分は勝てなかった?
悔しい
顔には出さないけれど。言葉には出さないけれど。
「・・・いや、お前は良くやった。過ぎたことをどうこう言う気はない。次に向けて練習するぞ」
跡部部長は怒らない。
悔しいはずなのに、絶対。
氷帝に負けは許されないのに。
「よぉやったな、日吉。お疲れ」
「・・・忍足先輩・・・」
「岳人ならお前の試合が終わった後、なんや急いで走っていったで」
「・・・ありがとうございます」
聞いてもないのに忍足先輩は俺が探す人物の居場所を教える。
こう言う時に怒るのはあの人。
こないだ俺が負けたときなんかメガホンでバシバシ叩いてきた。
俺は向日先輩を探しに行く。
足取りは気づかぬうちに早くなっていった。
−−−−−
「・・・向日先輩・・・っ?」
少し走ったために息が切れていた。
「・・・ひよ・・・し・・・?」
テニスコートと会場の入り口を結ぶ道の横にある芝生の上。
向日先輩は両手に缶ジュースを2本持ったまま、木の木陰にしゃがんでいた。
泣いてる
「向日先輩・・・なんで泣いてるんですか!?具合悪いんですか!?」
こんなに大声を、感情を出したのは久しぶりだ。
さっき自分が負けたときもこんなに感情は出さなかったはず。
人に自分の感情の変化を見せて何になる?かっこう悪いだけ。
心ではそう思ってるのに。
目の前で向日先輩が泣いてる。
それだけで格好悪いなんて気にならなくなる。どうにかしなければと思う。
「ち、違う・・・っ具合は大丈夫・・・」
ひとまずホッとした。
「・・・じゃあどうしたんです?」
俺は先輩が早く泣き止むように、背中をさする。
向日先輩が泣いてるのを見ているのは耐えられない。
「・・・日吉が負けた後、いつも・・・みたいに苛めてやろうと思ったんだけど・・・」
少し時間が経ったとき。
落ち着いてきたのか向日先輩が少しずつ喋り始めた。
「日吉の顔、いつもより真剣で・・・しかたないからジュースでも奢ってやろうと思ってジュース買いに来て・・・」
「・・・その間、俺ら負けたんだなーとか色々考えてたら分けわかんなくなって・・・」
「・・・で、此処に居たんですね?」
「う、ん。・・・わりぃ」
なぜ謝るんだろう。
先輩の希望を絶ったのは俺だ。
自分だって負けて悔しかったはずなのに。
後輩の俺に気を使ってくれて。
「・・・日吉?」
「・・・はい?」
「お前、泣いてる」
泣いてる?
・・・俺は気づかないうちに泣いていたらしい。
泣いたのなんて、いつぶりだろう。
人の前で感情なんて出すなんて。
でも・・・本当は泣くくらい悔しかったんだ。
「・・・やっぱ、負けんの悔しいよな。よしっ次はぜってー負けねぇ!!」
向日先輩がいきなり叫ぶ。
そしてバシバシと俺を叩き始めた。
「日吉の涙を見んのは今日が最初で最後だ!」
な!と。
さっきまでボロボロ泣いていた瞳が優しく微笑む。
いつしか俺の涙も止まっていて。
「ほら、行くぞ!跡部に置いて行かれる!」
そういって差し出された手を取り立ち上がる。
「・・・もう負けません」
「よーし、その意気その意気!勝つのは氷帝だっ」
人に自分の感情の変化を見せて何になる?かっこう悪いだけ。
そう思っていたのに、すっきりしている自分に苦笑しつつ。
小さい背中を追って走り始める。
end.