氷帝小説

□会えない関係
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「会いたいときに会えない関係は必ず終わりが来るのよ」


誰の曲だったか覚えてないけど

自分に思い当たる事がありすぎて…



「日吉、いま暇?会えない?」

「…すみません、今はちょっと」

「…じゃあ明日は?」

「明日は学校です。俺まだ大学生じゃないですから」

「…わかった…じゃね」



最近。

恋人がおかしい。

俺が会いたいって言っても、会えない事が多くなった気がする。

前なら「誰と何やってんだよ!」なんて聞けたけど

今はもうそんな勇気も無くて。

俺が大学入ってから、かなぁ…



…俺の事、嫌いになったの…?



確かに日吉に好きって言われた事、数えるくらいしか無いし。

いつも俺が喋ってて、日吉は黙って聞いてるだけ。

笑ってくれる事も少ないし、甘やかしてくれる事も、甘えてくれる事も無い。



…俺、嫌われちゃったの…?



今までの事、全部ひっくるめて考えると

その答えにしかたどり着かなくて。


でも、本人からは絶対に聞きたくなかった。


自分で嫌われてるって思ってても

日吉に直接言われたら俺、立ち直れない。

もう、誰にも会いたくなくなると思う。

だってそんな事考えただけで、涙が止まらないんだから。




それから1週間の間、俺は日吉との連絡を経った。




電話とか、メールとかが来るとどうしても

別れ話になってしまう気がして怖かったから。

この行動が、何の解決の方法にもならない事なんて最初から気づいてたけど

どうしても怖くて

日吉を失うのが嫌で

電話が来てもメールが来ても、それを見てみぬ振りをした。



−−−−−



日吉と連絡を絶ってから8日目。

俺は傍から見て直ぐに分るくらい疲れた顔をしているらしい。

顔を合わせる友達、ほぼ全員に

この1週間の間に一体何があったのかを問いただされた。



どんな話でも聞いてくれた高校までのテニス部の仲間には

今回の話はしていない。

一言でも話したら、絶対に会って気が済むまで話を聞いてくれるから。

俺は多分それに甘えて

また、何度も同じ事を繰り返してしまう気がする。

今回の事は誰にも話しちゃいけない、そう思った。



だからと言ってやっぱり一人で抱え込むのはキツイ。

俺は午後の授業を受ける気になれなくて、自主休講する事にした。

明日からはちゃんと受けよう…

そう思って校門を出た時

見覚えのある…大好きで大好きで仕方の無い


日吉の姿があった。



「向日先輩、なんで避けるんですか」



日吉は誰が見ても分るくらい怒ってて

いつも以上に無表情。



「電話もメールも無視」



でも一週間ぶりに日吉の事見て

やっぱり俺は日吉が好きなんだと思う。

こいつを失うのは、嫌だ。



「俺の事嫌いになったんですか?」



日吉の無表情だった顔は

少し悲しそうに。



「ち、違う!!お前が…お前が俺の事嫌いになったんだろ?」

「…は?」



失いたくない。

嫌いなんて言葉、聞きたくない。



「俺が会いたいって言っても会えないばっかりで…電話も出れない事多いし…」



やっぱりテニス部の奴らに話聞いてもらうんだったな

そんな事を、上手く回転しない頭で考えた。

そしたら日吉にこんな事言わなくて 済んだのに。



「…だからお前が俺の事嫌いになったんだと思って…でも直接聞きたくなくて…」

「…先輩」

「や、やだっ!聞きたくない!…俺の何が嫌い?直すっ直すからぁ…っ」



失いたくない。

嫌いなんて言葉、聞きたくない。



「単純な先輩の思考がそう言う方向に向いてしまったのは、俺のせいですね」



日吉はそう言って、俺に近づく。

俺はその意味が分らなくて、でもやっぱり嫌われてしまったのだと解釈する。

俺はまだ、お前の事が好きなのに



「俺、日吉の事が好きなの…っ」

「俺も好きですよ」

「俺も好き…って…え?」



自分の気持ちを泣きながら伝えて

拒絶されると思っていたのに。

その綺麗な口は俺の事を「好き」と言った。

…好き?



「先輩が単純な事、すっかり忘れてました。上手く説明できなかった俺も悪いんですけど」

「…日吉…?」



俺は状況が読み込めなくて、日吉の事をただただ見つめる事しか出来ない。

日吉はそんな俺を見て、困ったような笑顔を浮かべる。



「はい、手出して」



久しぶりに会った日吉が笑う理由が分らなくて

俺は日吉に言われたとおりに手を出した。



「…はい」

「う、わ…指輪だ…」

「会えなかったのも電話にあまり出れなかったのも、コレの為です」



俺が差し出した手に…いや、指にはめられたのは

シルバーの指輪。

シンプルだけど、決して安いものじゃない。

俺はそれがまだ信じられなくて

日吉にひとつづつ確認するように質問する。



「…まさか、バイトしてたとか言う?」

「…はい。言えなくてすみません」

「で、でもなんで指輪なの…?」

「先輩が…欲しいって言ってたから。それに、会えないとき寂しくないように」

「…っ…日吉が?」

「…あんたが」



そう言った日吉の顔があまりにも穏やかで

それが嬉しくて、涙が 溢れた。

日吉は仕方ないな、と言う顔をして…でも凄く愛おしそうな顔で

俺を抱きしめる。

今までこんなにあったかいと思ったこと、あったっけ…

さっきまであんなに苦しくて暗かったのに

今は明るくて、あったかくて、嬉しい。



「俺寂しかったんだからなっ!!怒ってるんだからなっ!!」

「はい」

「…俺の事好き?嫌いじゃない?」

「…嫌いじゃないです」

「…ちゃんと言わなきゃ怒る。許さない」



いつも俺がわがままを言うと怒る日吉も

今日だけは別のようで。



「…好きです。愛してます」



俺達は誰も居ない道の真ん中で

仲直りのキスをした。



end.



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