他校リョ小説
□秘密の願掛け
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「行きましょう、仁王くん」
「…」
俺は右手の甲にキスをして、ベンチから立ち上がった。
秘密の願掛け
雅治が右手の甲にキスをしたその場所は。
俺がさっきキスした場所。
あれは2人しか知らない。
秘密の願掛け。
*****
「仁王先輩っていつもアレしますよね〜?」
「ん〜願掛けかなんかじゃねーの?」
「願掛け?」
「靴を右から履く、とかあるだろぃ?」
「あーありますあります!」
試合に負けそうなとき、汗を拭いながらその場所にキスをする。
勝てる様に、と強く祈って。
試合に勝ったとき、パートナーと喜び合う前にその場所にキスをする。
君のおかげ、と感謝して。
「お疲れ、柳生、仁王。クールダウンして来てくれ。」
「えぇ」
「…」
俺はテニスコートの周りをきょろきょろ見回す。
そんな俺に気づき、柳生がこそっと耳打ちした。
「リョーマ君なら、テニスコート横の広場に向かっていきましたよ」
恋人の俺が所在を知らないのに、何故柳生が知っているのかは謎だが。
「ん、サンキュ」
俺は柳生にお礼を行って、その場から駆け出した。
テニスコート横の広場には、2・3人しか人が居なかった。
今はテニスコート前面で試合をしているから、皆その応援に行っているんだろう。
広場に居た2・3人の中にリョーマは居た。
「…リョーマ!」
リョーマはこちらを向き、微笑む。
俺はリョーマを抱きしめた。
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「…勝った」
「見てたよ、良かったね」
俺は綺麗な銀色の髪を優しく撫でる。
汗をかいてる筈なのにサラサラで、さわり心地が良かった。
「次はうちと勝負だね…うちの先輩に勝てるかなぁ?」
「勝つよ。リョーマがキスしてくれたら…絶対」
雅治はにこっと微笑み、俺の右手の甲に軽くキスした。
絶対勝つなんて言われてしまうとちょっと恥ずかしくなるけど、自分が必要とされているみたいで嬉しい。
俺は自分の右手の甲にキスをする。
「…じゃあ俺も勝てるかな」
雅治は俺の右手を取り、手の甲に2回目のキスをした。
そして、微笑む。
彼が何を言いたいのかが分かって、俺は嬉しくなった。
『勝つよ。俺がキスしたら…絶対』
言葉がハモって、2人で笑う。
勝つために…俺が俺である為に一番必要なのは…君。
end.