碧眼に滴る漆黒

□14.寧静な湖に小石は落とされる
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ハルは自分の部屋でシャワーを浴びていた。湯の暖かさが頭の痛みを微かに緩和する。



リヴァイに関しては冗談が過ぎたか・・・・・・。いや、あれはむしろリヴァイの冗談が過ぎたと言った方がいい。



まぁ、それにのった俺も大概だな。



とハルはシャワーの水で濡れる唇に軽く触れる。昨夜のこと先ほどのことが頭をよぎる。



リヴァイに男の趣味がないのは知ってる。女にも特に関心がないとは思わないがリヴァイは顔も結構整ってるしリヴァイに集る女もいる。



リヴァイは時々何を考えてるか分からなくなる。・・・・そんなこと、考えても仕方ないか。



アイツだってただの意味のない気まぐれかもしれない。それなら尚更考えたって無駄だ。



ハルはふとエルヴィンのことが頭に浮かんだ



あ、そう言えばエルヴィンに謝りに行くんだ。なんて謝ろうか。俺のために怒ってくれたんだよな・・・・。



それに書類も出さないと。



頭の中を切り替え蛇口を閉め水を止めた。髪から滴る水をタオルでふき取った。頭に触れた振動で頭の中がズキズキ痛んだ。



頭まだいてぇな・・・。いや、それより酒の匂いをとりあえず落とさないとエルヴィンに会えないっての。



俺からしても酒の匂いをぷんぷんさせた部下はごめんだからな



ハルは風呂を出たあと服を着換え、髪を乾かした。髪がちゃんと乾いたのを確認して机の上に置いておいた書類を手に取り部屋を出た



その足取りは思ったより軽かった。きっとリヴァイに話したことで心持が違うのだろう








ハルはエルヴィンの部屋の前で一つ呼吸をつく。



トン、



「入れ」



ドアの向こうから聞こえたいつもの声にドアを開く。エルヴィンはいつものように書類を片手に座っていた



視線は一瞬だけハルの方を見たがまた書類に戻した。それもいつもどうりだ。



ハルはその様子に多少苛つきを覚えた。



ハルはエルヴィンの表情を見ながら邪魔にならない机の端にもってきた書類を置いた



「・・・・悪い。これ昨日のやつだ」



「構わない。・・・・少し前に起きたのか?」



エルヴィンは持っていた書類を机の上に置きハルの方を見ていた



「あぁ、・・・・寝坊まではいかないがギリギリだったかな」



エルヴィンがそう聞いたのはハルからする匂いは先ほど風呂に入ったような石鹸の匂いがしたからだ



エルヴィンはハルと目が合ったがすぐにハルに逸らされたのと同時に俯いたために落ちてきた前髪にハルの瞳が隠れた



ハルは口を紡ぐような動作を見せたが何か言おうと口が小さく動いたのが分かった



エルヴィンはハルが何を言うのかはもう察していた。だからエルヴィンはあえて先に声を発した。



「・・・・・・昨日は悪かったな」



ハルはそのエルヴィンの言葉に驚愕していた。



ただ単にエルヴィンが謝ってることに驚いたんじゃない、俺が悪いのにエルヴィンが謝ったことに驚いたのだ



エルヴィンはこの場を収めようとするためだけに謝るようなことはないからだ



そう言われてハルは顔をあげた。エルヴィンは真っ直ぐこちらを見て視線を外そうとしない。



その強い視線についまたハルは俯いてしまった。



「い、や、・・・・俺が悪いんだ。」



ハルはなんとか声を絞り出すようにそう言った



「・・・・ハルが我々のためにしてくれたのは理解しているつもりだ。腕は大丈夫か?強く掴み過ぎた」



その言葉で昨日強く掴まれた腕のことを思い出した。痛みはないが夜までは軽く鬱血していた。



ハルはエルヴィンが心配してくれているのが分かって鬱血の跡が見えないように袖を抑え、軽く笑って見せた。



「あぁ、そんなの」



とハルは自分の腕をまげてみせるとすっと大きな手がその腕をとった



急に見えた手に顔をあげるとエルヴィンは椅子から立っていて目の前にいた。その距離に一瞬呼吸が止まりそうになった



エルヴィンはハルの腕の袖を軽く捲った。ハルからみても微かに鬱血した跡があったのが分かった。



「鬱血してしまっているな。すまなかった。」



近くで響く低い声に心臓がうるさくなった。



「エルヴィンが謝るほどじゃない。」



ハルはそう答えて笑って見せるとすっとエルヴィンの手が離れた。



それにハルは内心安堵した。



「・・・・ハルは私に従順すぎだ。」



エルヴィンは一段落ついたように話を始めた。ハルはエルヴィンの瞳を見つめた。



「それは、お前の判断が正しいのは知ってるからその通りにしているだけだ」



「ははっ、そんなに高くみないでくれ。私だってどれが正しいかなんて分からない」



「それでも俺はエルヴィンの判断に任せたいだけだ。」



「私も信頼されているもんだな」



そういってエルヴィンは微笑む。ハルも久しぶりに見たそんなエルヴィンの表情をみて笑った



「あぁ、当たり前だろ。昔っからだ」



そうだ。ハルはエルヴィンを昔から信用しており慕っていた。その信用はエルヴィンの方も同じだ。



「そうだな。・・・・ハルはもっと自分を大切にしてくれ」



その優しさにハルは少し嬉しくなった



「俺なら大丈夫だ」



ハルは微笑んでみせるとエルヴィンも不敵に微笑んだ



「本当かな?」



とエルヴィンは軽く首を傾げた。ハルはその様子に頬を緩ませながらも「あぁ。」と答えた。



エルヴィンにはそのハルの表情がとても秀麗に見えた。





 
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