碧眼に滴る漆黒

□17.謝罪と混乱
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訓練後は皆息切れを整えようと深く呼吸を繰り返している。午後の訓練が終わり皆始まりの時と同じように整列をする。



その前を名簿を片手にハルが新兵たちに目をやる。



ハルは優しそうな微笑を浮かべ「お疲れ様。」と言葉にした。そこまでは優しい上官だろう。



「1班、2班はコニー・スプリンガー、ライン・ガリウス、3班、4班はキラー・ヴァージン、クリスタ・レンズ、5班、6班…」



ハルは再び名簿に目を落とし淡々と名前や班名を読み上げる。



「外周100。日没までには済ませろよ」



それはハルが担当指導の時はお決まりの地獄のお告げだ。



ハルの言葉に新兵たちは顔が引きつるのを堪えていた。前までは50周だったが体力がついたのもあり数を増やしていた。その数が増えたことに身が重くなったのだ。



「「「はい!」」」



その返事と同時に名前や班名をあげられた新兵たちはそのまま走り始めた。エレンもその中に混じり足を進める。



「先に訓練の終わったものは本部に戻れ。気遣いは忘れるな。」



エレンはハルのそんな言葉を微かに聞きながら外周に向かった。気遣いというのは外周に向かった兵たちに対することだ。



先に本部に戻る兵たちもそれは理解していた。



エレンは走りながら訓練中に起こったことをずっと考えていた。



ハル補佐官には外周が終わったらすぐ謝りにいかないと、庇ってくれたんだ。



俺、何してんだ。訓練中だってのに集中出来てなかった。クソっ・・・・!



エレンはずっと訓練中に集中が欠けてしまったこと自分のしたミスを後悔していた。



エレンは外周している新兵の中で一番に外周を終わらせアルミン達を待たず先に本部に戻った。



部屋に戻るとすぐに立体起動装置を置き、ベルトを外してハルの部屋に向かった。



部屋を出ると渡り廊下にはたまたま通りがかったであろうミカサがいた。ミカサはどこか急いでいるエレンに気づき近寄った。



「ミカサ、」



「エレン、どうしたの?」



ミカサはエレンのどこか急いでいる様子やアルミン達と帰ってきてないことにそう聞いた。



「ハル補佐官に謝ってくるから先に食堂に行っとけ。」



ミカサはその言葉だけで理解できた。訓練時にエレンが枝に突っ込みそうになったのをハルが庇っていたのをミカサも見ていたからだ。



「・・・・分かった。」



ミカサはそんな急いでいるエレンの後姿を見ながら『待ってた』ということは口にせずアルミンを待つことにした。



エレンは渡り廊下を出て他の兵たちも通っているためスピードを落とした。



ハル補佐官の部屋は確か奥の上の階だ。と早歩きをしながら外からハルの部屋の窓を見る。



その時手前の書物の倉庫の裏から一瞬金髪が見えた。エレンは反射的に足が止まった。



顔は見えないが髪の長さからしてきっとハル補佐官だろうと思いエレンはそちらに足を進めた。



「・・・・ぁ」



「分かるよ。ミケの班の子だよね?」



エレンはハルのその声にとっさに呼ぼうとした声を殺した。



やばい、誰かと話してたんだ・・・・!!エレンは息を殺し棚の裏に身を隠した。ハルを再びゆっくりとみてこちらに気づいていないことを確認し安堵した。



「はい、急に話しかけてしまい失礼しました!」



「いいよ、俺も食堂に行こうとしてただけ。」



ハルはちょうど資料にしていた書物を返し食堂に向かう途中だった。そのときに声を掛けられ足を止めていた。



ハルの耳には微かに後ろから聞こえた足音を聞きとっていた。



めんどくさいのに捕まった。正直そう思っていた。



「あの、私、話があって」



奥から聞こえる女性の声。その瞬間にエレンは察してしまった。



必死に言葉を絞り足しているような声に話の内容。あぁ、これは確実に告白している。



離れなければ。盗み聞きなんてするものじゃない。そう思えどエレンの体は一向にそこから離れなかった。



「・・・・なに?」



ハルもその雰囲気を察していた。また、それとは別にハルは目の前の子の顔を見て思い出した。



あぁ、この子はラーナだ。あの堅実で気の利く子だ。



顔を見て口にしてくるような子じゃない。そう分かった瞬間にため息が出そうになったのを堪えた。



こういう子は苦手だ。



「私、新兵の時にハル補佐官の下で一度働かせてもらったんですけどそのときからずっと憧れてました・・・・!」



「ありがとう。覚えてる。君、ラーナ・ガディアンだろう?」



「・・・・はいっ!」



その女性はハルの思いがけなかった言葉に驚いていた。ハルはそんな彼女に淡く微笑んだ。



「髪切っちゃってるから全然分かんなかったよ。」



「ははっ、すいません。・・・・それで、私ずっとハル補佐官の姿見てました。・・・・でも、これはもう憧れじゃないんです。」



「・・・・うん、」



ハルは心の中で言うな。と何度も唱えた。



とてつもなく似ているのだ。哀れな自分に。



「私、ハル補佐官のことが好きです。無礼なことは承知ですが良かったら付きあ・・・」



その女性はハルの表情を見て言葉が出なかった。今までに見たこともない悲しそうな表情をしていたからだ。



「ごめんね。付き合えない。」



「は、い、・・・・いいんです!分かってたんです!」



この女がアバズレとかならいいのに。こんな子からの告白は苦手だ。



「付き合うことはできないけど、気持ちは受け取らせて?・・・・・・言ってくれてありがとう」



「はい、・・・・ありがとうございます。」



そう言ってその子はハルを目の端で追いながらもそのまま向こう側に歩いて行った。その姿が見えなくなってハルはため息をついて後ろに視線を向けた。



「エレン、趣味悪いぞ」



その言葉にエレンの心臓が大きくなった。エレンは唾液の飲みのみハルの前に出た。






 
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