碧眼に滴る漆黒
□20.早朝に覆われた真意
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ひやりとした空気に目が覚める。
しかし眠気は消えずハルは朝独特の寒さにシーツの中へ中へと身を引きこんだ。
シーツを掴む手が何かに触れそれが暖かくそのままそのシーツに体を寄せ、寒さを紛らわしていた。
寒い・・・・。朝か?・・・・昨日はどうしたんだっけ。ナイルと酒飲んで店が閉まる前には帰って、
眠気で朦朧としている頭を動かし寝る前の思い出す。起きればいいものの生憎ハルは朝が強いほうではない。
あぁ、そうだ。途中でエルヴィンが来て三人で話したんだ。そう、それで部屋に戻って・・・・風呂入ってないな。最悪。
そう思いつつ眠気が強く体が動こうとしない。ただその大きい暖かいものに引っ付こうと手を伸ばす。
掴んだものはシーツとはまた違う布の感触、いやこれは衣服だ。そしてその布には独特の皮膚の感覚。
そう気づいた瞬間に強い眠気もどこかへ行った。これは人だ、ヤバい。そう思い体が固まった。
ハルはその人物が誰か分かるようゆっくりとシーツを手前に引いた。見えた金髪と下がっている長い睫。一瞬息が止まった。
なんで、こんなところに・・・・?
そう思っているとシーツの動いた感触で起きたのか長い睫の間から碧い瞳がのぞいた。
「ハル、おはよう。」
とエルヴィンは呆然としたハルを余所に頭を優しく撫でた。
待て。なんだ、夢かこれは。
と慌ててハルは上体を起こしあたりを見回した。棚も机も全てエルヴィンの部屋のものだ。
「・・・・なんでエルヴィンの部屋に」
と言葉を言いかけた時昨夜のことを思い出した。
そうだ、エルヴィンと一緒に帰ってアルコールで頭がもうぼーっとしてたんだ。部屋の鍵が見つからなくてエルヴィンが声掛けてくれたんだ。
「ふふ、思い出したか?」
とエルヴィンはそのハルの様子を察して笑みを浮かべていた。
「悪い!勝手にベッド借りて・・・・!」
「いや、構わないさ。さっきまで温もらせてもらったからな。」
そう言われ自分がさっき引っ付いてたのがエルヴィンだと分かり顔が熱くなった。
これは善い事か悪い事かどちらとも言えなかった。ハルは火照った顔を隠すように俯いた。
「悪い・・・・。」
「ふふ、謝らなくていいさ。」
エルヴィンはいつもより柔らかな表情で微笑んでハルを見ていた。
そう言えば俺風呂に入ってない・・・・。こんなんでエルヴィンのベッドに寝たなんて最悪すぎる。
ハルはその視線には気づかずただ単純な失態をしたと後悔していた。
「ハルは案外酒に弱いからね。気をつけないと。」
「つくづくそう思うよ。風呂に入ってないのに悪かった。」
とエルヴィンの方を見ると寝起きのためいつもきっちりしているのとは違い前髪は降りていていつもと雰囲気が違った。つい目がそのまま奪われた。
いつぶりだ、前髪降ろしたエルヴィンみるの。
「気にするな。・・・・どうした?」
ハルの視線にエルヴィンが気づいた。
「いや。エルヴィン、前髪が」
とハルの手が不意に伸びてきてエルヴィンの前髪に触れる。細い指がエルヴィンの前髪をゆっくり撫でた。
エルヴィンはその時に少し見えた手の甲にある傷に気が付いた。
「ハル、それはどうした?」
とその手を取った。ハルはその手の甲の治りかけの傷痕を見て「あぁ、」と思い出したように苦笑いした。
「ちょっとね。擦っただけ。」
とどこか話をごまかすようにして笑みを浮かべた。エルヴィンは「そうか。」とそれ以上は聞かず、再び髪に触れるハルの手を自由にさせていた。
ふとエルヴィンはハルに目をやるととても優しい碧眼がこちらを見ておりハルは上体を起こしているため下から見たハルの表情は窓の陽に当たりどこか幻想的だった。
エルヴィンはそれに目を奪われた。
エルヴィンはそっとハルの頬に手を添えるようにして手を伸ばした。ハルの肌は女性のようにすべすべしていて心地よかった。
「君は綺麗だ。」
そうエルヴィンが無意識にポツリとつぶやいた。その瞬間にハルの手はエルヴィンの髪から離れ俯いた。
その動作で前髪が前に落ち、ハルの表情を隠した。
エルヴィンも自分が何を言ったのかすぐに理解した。でも言い直す必要もない。そう思った。
「あ、りがと。じゃ、俺風呂に入るから部屋に戻るな」
「・・・・そうか。」
「あぁ、泊めてくれてありがとう。」
ハルは頷きながらそう言いベッドから降りた急ぐように去っていくハルの髪の間から紅潮に染まっている頬が見えた。
ハルはエルヴィンに背を向けながら顔の熱さを誤魔化せずにいた。
なんで、あんなこと言うんだ。エルヴィンは分かってない。これ以上ここに居たらヤバい。
早く出ないと。とドアを開け廊下に出た紅潮した頬を抑え一人自分に落ち着けと心で唱えていた。
エルヴィンに触れていた指をギュっと握りこんで混乱した頭を落ち着けていた。
「ハル・・・・」
またそこでエルヴィンの部屋から頬を赤らめて出てきたハルを漆黒の瞳が見ていた。