碧眼に滴る漆黒
□21.癇症な情調
1ページ/1ページ
ハルは静かに広がる草原に鞍から足を降ろし馬から降りた。
朝のエルヴィンのことは結局どういう意味なのかハル自身理解していなかった。
考えれば考えるほど分からなくなってくる。
『君は綺麗だ』
自惚れでもエルヴィンにそう口にしてもらえただけで心臓が強く脈を打つ
最近は混乱するばかりだ。
そう思いついため息が漏れた。
任務は任務だ。使い分けないと補佐官の立場に傷がつく。
そう頭の中を入れ替え今日行う実験場の周囲を見渡した。
近くには古井戸がありすでに水は枯れ、底が見えている状態だ。この場所はクソ女が選んだらしい。
「馬をお預かりします。」
と近くの男性兵に声を掛けられ紐を渡し「頼む」と一言声を掛けた。
周辺を見ると古井戸の周りには大勢とまでは行かないが必要最低限の人数が待機をしていた。
「ハル−−−−!!」
その声と同時に後ろから気配を感じた。ハルは瞬時に振り返りハルに飛びつこうとしていたハンジの頭を掴みこれ以上近づけないようにした。
「ここでするのか?」
「いででで!!力入ってるって!!」
ハンジはハルの力のこもる手を掴み剥がそうとするが剥がれない。それほど力がこもっているのだ。
ハルはハンジが抱き着いてこないのを確認してから手を離した。ハンジは痛みの余韻を手で押さえながらふらついていた。
「エレンの巨人化はこの古井戸でするんだろ?深さは確認したのか。」
そういうと今だふらついているハンジを余所に隣からリヴァイがこちらに来た。
「あぁ、確認してる。10mはあるそうだ。」
ハルはリヴァイに視線を移し今日行う実験の確認をしていた。
この実験は以前からハンジが提案していたものだ。エレンの巨人化について必要時に巨人化できるのか、巨人になった時の再観察。
勿論、巨人化が成功したとして自我保てず暴れるという可能性もある。その場合兵士の出動を伴い最悪死人のでるリスクもある。
でも本当の損害はエレンを失うこと。これは正直どうしても逃れたいところだ。人類の損害が大きすぎる。
まぁ、リヴァイ達もいるしそのリスクは低いとは思うが。
「兵は?」
「最低限至近距離で俺たちの班が待機している。他20名はそれより50m離れた位置で待機させてる。」
「十分だ。エレンに説明はしたのか?」
「あぁ、手足の先っちょを切り取ること言ったらビビってたがな。」
「そりゃ餓鬼だから仕方ないさ。」
ハルはなんとなくその時のエレンの表情が頭の中で浮かんだ。きっと正論で押さえつけられたんだろう。ま、きっと俺でもそうする。
リヴァイがいるときは結構物事がスムーズに進む。補佐官のハルにとってはありがたいことだ。
いつものようにリヴァイの頭に手を伸ばした。
パシッ、
手に感じたのは冷たい音と弾かれた感覚。ハルはリヴァイに手を弾かれ少し驚いたようにリヴァイを見た。
リヴァイは目を合わせないように俯きハルに背を向けハンジの方へ足を進めハルから離れた。
今だふらつくハンジに「いつまでふらついてんだクソメガネ」といつものように毒づきどこか不機嫌そうにしていた。
・・・・・なにで不機嫌になってんだか。
とハルは早く察しとくべきだったなと思いながら奥のテーブル付近にいるリヴァイ班に足を進めた。
リヴァイ班の兵士はすぐにこちらに気づき拳を胸に当て敬礼の姿勢を見せるがハルが手で『しなくていい』と示すと遠慮がちに拳が下りた。
「ハル補佐官!久しぶりです!」
最初に言葉を発したのはエルドだ。リヴァイ班とは3回ほど面識があった。勿論、訓練で指導したこともある。
「あぁ、相変わらず実績は上位だと聞いてるよ。さすが精鋭軍だな。」
「と、とんでもありません!」
「ハル補佐官の指導があったからです!」
とエルドに引き続きペトラがそう答える。みんな緊張が隠せない様子でハルを見る。そう、みんなにとってハルは尊敬すべき人物だ。
グンタとオルオもハルがこちらにくると思ってなかったので固まっている。
ハルは「そんなに固くなるな、対応に困る。」と柔らかな笑みを浮かべて言うとみんなそのハルの様子に微かに目が奪われる。
ハルの容姿は相変わらず端正で人の目を集めるのも昔と何も変わってはいない。
「はは、すいません。」
「いいよ、それとエレンはどこ?」
とエレンの場所を聞くと少し離れたところでずれていたベルトを直していた。
「ありがと」と答えてハルはエレンの方へ足を進めた。ペトラ達はそんなハルの後姿を眺めるように見ていた。
「相変わらず威圧感がすげぇな・・・・。」
「しっ!オルオ聞こえちゃうでしょ!」
「ほんとにあの人非の打ちどころねぇよな」
「あぁ、でも前のハンジ分隊長が半殺しになってたのってハル補佐官がしたらしいな。」
「えぇ!そうなの?」
「それ俺も聞いたぞ。噂では家具はボロボロ、壁に血がついてたらしいぞ・・・・。」
「「「・・・・・・」」」
と4人はハルを視界でとらえながらすっと血の気が引いた。