碧眼に滴る漆黒
□23.相応な明敏
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ハンジが古井戸の底にいるエレンに簡単に説明をする。周辺の兵は既に十分に距離を置いて待機をしている。
強いて近くにいるというならばリヴァイを含むリヴァイ班とハンジとハルだ。強い緊張感がエレンを襲っていた。
「準備が出来たら信煙弾で合図するからそれ以降の判断は任せたよ。」
ハンジの声が古井戸に反響して響く。エレンは片手をあげ「了解です!」と返事をした。
ハルも古井戸を覗き「落ち着いて行え。」とエレンにいつもの穏やかな様子で言った。
エレンは微かにえみを浮かべて「はい!」と返事をした。ハルはそれを確認してから馬に跨り古井戸から多少距離を置いた。
「距離はもう十分だ。ハンジ、信煙弾を打て。」
「了解!」
ハンジが信煙弾を構えたのを確認してリヴァイ達に目をやる。
「いいか。エレンが巨人化して暴れても殺すな。最悪死人が出てもだ。」
「「「「はい!!」」」」
そのハルの言葉に緊張が走る。それと同時にパァンと空に緑の煙が一直線に描かれた。
それから数分経ってもなにも起こらない。巨人化どころか物音さえも聞こえてこない。
「合図が伝わらなかったのかな?」
なにも起こらない古井戸を見てハンジがポツリと呟いた。
いや、合図は確実に伝わったはずだ。変化がない。ということは、
「いや、そんな確実性の高い代物でもねぇだろ。」
リヴァイはそう言って古井戸に近づいていく。
「おいエレン!いったん中止だ!」
その声と同時に周りの兵たちの緊張感も緩んだ。ハルとハンジもリヴァイの後を追い馬から降りて古井戸を覗いた。
井戸の中の様子にハンジは言葉を飲んだ。そこには血まみれのエレンが立っていた。
「ハンジさん、・・・・・巨人になれません。」
そうエレン自身落胆したような低い声が井戸の中で響いた。ハルは理解したように小さく頷いた。
「ハンジ、一旦休憩だ。今のエレンが巨人になれるとは思えない。」
「・・・・・あぁ。」
リヴァイの方を見るとリヴァイもハルを見て頷いた。とりあえずエレンを古井戸からだし手の治療に当たらせた。
手の甲を見れば傷口も直ってない。完全な不発だ。
みんなその結果に落胆したような様子は見せてないが巨人化できないとなるとこれは問題だ。兵たちはそれぞれ穏やかに休憩を取っていた。
ハルとハンジは少し離れたところで木製でできた机にもたれ掛っていた。
「ハンジ分隊長、ハル補佐官、コーヒーをお持ちしました。」
ペトラがこちらにもコーヒーを持ってきてくれた。ハルは数枚の書類を片手にコーヒーを受け取った。
「ありがとーう!」
「あぁ、ペトラありがとう」
そうハルが答えるとペトラは少し驚いた様子でハルを見た。ハルはそのペトラの様子に気づき書類に目を通しながら「どうした?」と声を掛けた。
ペトラは声を掛けられたことにびくっとして自分の行動を後悔した。
「い、いえ、私の名前をご存じなのですね・・・・・。」
関わったこともほとんどないのに名前を覚えられてるとは思っていなかったのだ。
「そりゃあね。精鋭軍は全員覚えてるよ。」
さらっと言ってのけるこの人が怖い。精鋭軍でも100人は超しているだろうに。彼はそれを全員覚えてるのだろうか。
「それより、エレンの治療はすんだか?」
「はい・・・!」
「治り具合は?」
「先ほどと変わらず治癒される様子が見られず本人も痛がっていました。」
ペトラはそう報告すると碧眼が書類からこちらに向いていることに気が付いた
「そうか。おそらくこの状況に一番落胆してるのはエレンだ。フォローを頼む。ペトラのような女性がしてくれるとありがたい。」
「は、はいっ・・・・!」
ペトラが必死に返事をするとハルは軽く微笑んでみせ「下がっていい。頼む。」と声を掛けた。ペトラは一礼をしてその場を去っていった。