碧眼に滴る漆黒
□25.表面をなす現状
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エレンは初めて来ていたハンジの部屋の散らかり具合に苦笑いをする。
足の踏み場もやっとだ。その中で大量に重なった書籍を隣にしてエレンはソファーに腰を掛けていた。
「それでそれで!巨人化した腕から手を引っこ抜くのは痛い?熱くはなかったの?引っこ抜いたときはどれくらいの力を加えたの?」
まさに質問攻めだ。そのためにここにきているわけだがハンジは興奮を抑えきれず机を跨ぎかけている。
「ハンジさん、近いです・・・・。」
そういうとハンジは「あぁ!ごめんごめん!」と顔を離し反対側のソファーにのたりこんだ。
それでもハンジは巨人化できるエレンの話に昂奮を抑えられずにいられなかった。
「引っこ抜くのは痛くないです。熱くもありません。でも力は結構入れないと抜けなくて全体重をかけて抜きました。」
「ふんふん、そのあとは眠くなったりは?」
「眠く・・・・はならないですけど、すごい疲れるっていうか間接的には眠たくなります。」
「起きた時巨人化した記憶は?」
「ない・・・・です。」
「でも一部が巨人化しただけなら覚えてるんだよね。実験の時は意識もはっきりして自我もあった。」
「はい、多分完全に巨人化したときだけかと・・・・。」
とエレンはハンジの尋問に答えていく。部屋はハンジとエレンの二人きりだがハンジの明るい雰囲気に緊張感は漂っていなかった。
「そっかぁー、また実験していく必要があるね。そういえば体調に変化は?」
「とくにありません。」
エレンはそう答えハンジはエレンの答えたことをメモするように紙にペンを走らせる。
ハンジはふとハルが『エレンの体調を確認しろ。負担が気になる。』と言っていたことを思い出した。
「うん、よかったよかった!そいえばハルもエレンの負担気にしてたよー」
そのハンジの言葉は特に意味を含んだものでなかったがエレンにとっては反応するには十分だった。
「え、ハルさんが?」
「うんそうそう!エレンハルのこと好きだもんねー」
そのエレンの表情を見てハルが関わったことに反応したのが分かった。
エレンはそのハンジの言葉に頬を緩ませながら「はい、」と答えた。
ハンジはそんなエレンに気づきハルとエレンの仲に疑問があったのを思い出した。
そいえばエレンは異常にハルに懐いてたな。いや、あれは懐いてたというよりは・・・・。
「ハルってエレンに対して素だよねー!新兵に素なんてエレンぐらいじゃないのかい?」
それはハンジにとってはひっかけのつもりだった。ハンジはそう言って見せエレンの方を見た。
「ホントですかっ!俺ぐらいなんですか!!」
パァと嬉しそうにエレンはハンジの方をじっと見ている。犬だ。褒められた犬にそっくりだ。
思った以上のリアクションが返ってきた。ハンジはエレンに警戒されると思って遠まわしに言ったがその必要性のなさに気づき肩を落とした。
「う、うん」
その勢いに圧倒されそうになりながらハンジは頷いた。確かに私からしてホントのことを言っただけだ。
でも分かりやすい。分かりやすすぎて悪知恵使わずにすんだ。
「あ、あのっ、ハンジさんってハルさんと付き合い長いんですよね?」
「え?・・・・あぁ、でも一番長いのはエルヴィンだよ。その次が私。」
まさか逆に聞かれるとは思わずそのまま答えた。エレンがハルに興味があるのは見て分かる。
「ハルさんって昔からあんな感じなんですか・・・・?」
エレンが言っているのはハルが清閑ながらも統率力があり周囲の気遣いができ完美な存在であること。その一面横暴なときもあるということだ。
ハンジのその質問に初めて会った訓練兵時代を思い出してきた。ハンジ自身そのころを思い出したら次々と言葉が漏れてきた。
「昔っからだよ、暴力的でしょ!あんなんいつもだからね!私なんか手加減なしだよ!」
そう訴えるように言うハンジにエレンはつい苦笑いをする。これは素の部分だ。
「ははは、ハルさんって昔は彼女とかいたんですかね・・・・。」
「彼女?そんなの作ると思うかい!」
ハンジは笑いながらエレンを見た。その様子に安堵したような気持ちなになりながらも「ハハ」と乾いた笑いでごまかした。
「それよりハルはエルヴィンだからねー」
その言葉に前酔っていたときやその後の食事の時エルヴィンの話となるとどこか柔らかな表情になっていたハルを思い出した。
「エルヴィン団長とは昔からの付き合いなんですよね、ハルさんからも話は聞きました」
「話聞いたんだ?惚気話とか多いでしょー?」
そう興味ありげに聞いてくるハンジにエレンは少なからず疑問を抱いた。
「はい、仲がいいとかよく聞きます。」
「仲がいい?あー、うん、そうだね。ハルにとっては違うんだろうけど。リヴァイも報われないよ。」
ハンジはついぽろっと口にしたことに気づいた。やっべ。その瞬間にそう思いエレンをみるとエレンの目もハンジの目を捕えていた。