碧眼に滴る漆黒

□27.触れる指は気付かない
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ハルがリヴァイの部屋を足早に去ったのは気まずかったのもあるが他に理由があった。



ハルは自室に人を待たせていた。しかしハルの歩調に急ぐような様子はなく自室に戻った。



ドアを開きハルはため息を漏らした。



「お前スーツ着たことねぇのな。」



そう言うハルの視線の先には鏡の前でスーツを身に着けたエレンが立っていた。ハルがそう思ったのは襟が左右同じ角度に曲がってないことあと服の皺も着た時についたものだろう。



その言葉にエレンも振り返った。エレンはスーツの着こなしや身だしなみを指導をするためにハルがリヴァイの部屋に行く前に声を掛けていたのだ。



エレンはハルの白のシャツに黒のスーツで締まっている姿を見て言葉が出てこなかった。



ハルのスーツ姿は舞踏会のとき帰りにたまたま遭遇して一度目にしていたが整然と整えられている姿は初めて目にした。



またいつもとどこか違う雰囲気だ。エレンはその姿に惹かれる想いを止めきれずハルの方に足を進めた。



「ハルさっ」エレンの言いかけた言葉はハルの腕力によって遮られ「いでででで」と苦痛の言葉に変わった。



ハルが抱き着こうとしたエレンの顔を手で掴んだのだ。



「抱き着くな。鬱陶しい。」



「すみませ・・・・!いたいですっ!」



と気が痛みの方に言ったのを確認して手を離した。エレンは顔を手で抑えながらハルを見る。



「手邪魔。」と言われ咄嗟に顔に当てていた手を避けたが顔の痛みの余韻は消えない。



ハルはエレンの乱れていた襟やシャツ、スーツの裾の皺を伸ばし直していた。



「襟とスーツの皺ぐらい伸ばせ。襟は特にな、目立ちやすい。」



「はい、」



ハルはエレンの服の皺も丁寧に直し椅子を一つ引いた。



「服はそれでいいから次髪な。座れ」



「はいっ!」



エレンは普通なら緊張感漂うような空気だがハルが指導してくれることに口を緩ませ、急いで椅子に腰を掛けた。



犬。ハルはその様子に微かに頬を緩ませながらエレンの前に立った。



オールバック・・・・、いや、エレンはまだ若ぇからな。片前髪オールバックにするか。



「ハルさん、スーツすごい似合ってますね。」



エレンはハルのスーツ姿を改めてみるように足元からハルを見上げた。



ハルは「そうか?」と答えながら掌にワックスをとった。



「はい、俺惚れます。」



そうさらっと口にしたエレンに聞き間違いかと目をやると笑みを浮かべて「もう好きなんですけどね」と口にした。



どうやら聞き間違いではないらしい。ハルは止まりそうな手を動かし掌にワックスを広げた。



「はいはい、晩餐会に行けば綺麗な女がたくさんいるぞ。」



そう答えるハルにエレンは頬を膨らませながら「別に興味ないです・・・・。」と小さく答えた。



ハルはそんな様子のエレンに小さくため息をつきワックスのついた手でエレンの右前髪に触れた。



「ハルさんは髪のセットはしないんですか?」



「んー・・・・?するする。お前のが終わった後な。」



ハルはエレンの髪に集中しエレンの言葉が1テンポ遅れて頭に届いた。





 
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