碧眼に滴る漆黒

□8.初恋と相違
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ハルはそのまま部屋に向かう勿論部屋の前には予想通りの人物が立っていた



階段を上る時点から気づいていたのかリヴァイの目はこちらを見ている



「遅かったな。何してたんだ?」



「呑んでた。おかげで気分が悪い」



とリヴァイを避け部屋の中に入る



あぁ、とりあえず風呂に入るか。そう思いスーツを皺にならない様にハンガーに掛けた



リヴァイはすこしふらつきのあるハルの足取りにため息を漏らし、ソファーに座った



「リヴァイ、寝たのか?」



「あぁ。テメェはあんま寝てねぇようだがな。綺麗な顔が台無しだぞ」



「嫌味か?・・・それにしては早起き過ぎんだろうが。もう年かお前」



「あ?生憎酒はそんなに口にしてなかったんでな」



「・・・・というかお前俺の部屋に滞在する気か。一人で休みたいんだが」



とハルは部屋からリヴァイを追い出そうとした。それはハルが勘のいいリヴァイに小言を言われたくなかったからだ



「俺が面倒をみてやるさ」



この言葉にリヴァイが何かを察知しハルの部屋に滞在しようとしたことが分かった



そっちの方が面倒だっての、とハルは心の中で呟きながら頭を掻いた



リヴァイはスーツの方に近寄り襟元の皺を整える



スンとリヴァイの鼻を無臭の無機質な香りを掠めた



ハルはそんなリヴァイを横目で見ながらため息をつき風呂場に向かった



シュルとネクタイを緩め鏡を見た。右の胸上に鬱血根がついていた



前夜の行為中につけられたものだろう



「チッ」



と思わず舌打ちをした



浴室から聞こえた舌打ちにリヴァイが反応した



滅多にハルは舌打ちなんかしない。リヴァイ自身彼の舌打ちを聞いたのは久しぶりだ



声を掛けようとしたがすでに浴槽からはシュワーの音が響いてたため諦めソファーで待つことにした



暫く立ってからシャワーの音が静まり服を着たハルが出てきた



前髪はシャワーの湯に濡れ水が滴っている



髪を乾かすように準備されただろうタオルは肩に掛けられていただけだった



リヴァイは濡れた髪から覗く白い肌に触れたくなった



リヴァイが手招きをするとハルはすっとリヴァイの足の間の絨毯に座り込んだ



リヴァイは「ん」とハルの肩からタオルを取り濡れた金髪の上に広げ水の垂れそうな毛先から拭いてやる



ハルの髪からはシャンプーの香りがし、リヴァイの鼻腔をくすぐった



あぐらをかき黙って拭いてもらうハルの姿はまるで猫の様だった



「髪ぐれぇ自分で拭きやがれ」



「お前が面倒見てくれると言っただろう?」



とハルは仰ぎリヴァイの方を見た



リヴァイはこちらに向けられた柔らかな表情に女が騒ぐのも仕方ないかと心にとめた



「あぁ、言ったな。」



「というかこんな明け方に部下も起こしてんじゃねぇよ。エレンが可哀想だ」



とハルは再び前を向き髪をリヴァイに任せることにした



「なんだ、お前エレンに会ったのか」



「あぁ、可哀想に外の掃除をしていたよ。お前はこんなところでくつろいでるのにな」



「俺はテメェの面倒を見ている」



「それは失礼したな。」



「それと、貴族共と酒を飲んだ割には香水の匂いが薄いな」



「そうか?まぁ、いいことだろ。」



「そうだな。俺も香水の匂いは嫌いだ。そして嘘をつかれるのもな」



ハルは背中から聞こえたその言葉にため息をついてリヴァイの膝に頭を傾けた



「お前は何かしら小言が多いから嫌なだけだ」



「ハル、お前には変な噂が流れやすいからな。」



「そのフォローをしてくれてると?・・・ははっ、それは助かる。が、彼女とはもう約束した。話もまとまっている」



リヴァイはそのハルの言葉に反応し目つきを変えた



彼はいつも女絡みは上手く受け流していたはずだ。約束?話もまとまってるなんて、なんの話だ



とリヴァイの呼吸が浅くなった



「約束?・・・何の約束だ」



ハルはリヴァイの手が止まったことに気づきリヴァイの手からタオルをとった



「なんだ興味があるのか?」



「話とは、・・・婚約のことか?」



リヴァイはなんとか言葉を発したようだった



リヴァイはハルが半年ほど前にサラ・ファーナルというファーナル家令嬢に婚約を申し込まれたことがあったのを知っていた



結果、話は無くなったようだが昨晩の舞踏会の様子を見ればその女がハルに惚れているのは昨日の様子を見ていれば見ていれば一目瞭然だった



「話を勝手に進めんな」



その一言でリヴァイはとりあえず落ち着いてハルを見ることができた



「なら何のことだ」



「・・・・お前に話すことじゃない。髪、ありがとう。俺はもう休むからお前も部屋に戻れ。」



とハルはゆっくりと立って寝室に向かう



リヴァイは話が曖昧にされたことに不安になった



「おい」



「しつこいぞ。何かあったとしてもお前が気にすることじゃない」



「気にすることじゃないだと?テメェふざけてんのか」



今起きてるのだってコイツが一人貴族共といるとのに一人でぐっすりと寝れるわけがないからだ



ハルがどうも気にかかって仕方がなかった



「俺はお前に俺のことを気にしてくれなんて言った覚えはない」



「あぁ、言われた覚えはない。俺が勝手に気にしてるからな」



振り向いていたハルは明らかに不機嫌だった



「俺はもう休むと言ったんだ。・・・あと、無駄な深入りは好きじゃない」



ハルはそう言って寝室のドアを閉めた



彼がこんなに不機嫌になるのは珍しかった。令嬢の願いで体の関係を持ったこと、それによる嫌悪感とそのことについて問われたこと。いろいろ重なったのが問題だろう



ハルはベッドに身を任せるとすぐに意識を手放した



一方でリヴァイはソファーに座ったままため息をついた



まずかったか。とリヴァイは寝室の方を見る



『何かあったとしても気にすることじゃない』



その彼の言葉がリヴァイの頭の中で留まっていた



言い替えればお前には関係ない。そう言われたのと同じだ



リヴァイにとって心の中が荒らされたような気分だった









 
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