碧眼に滴る漆黒

□14.寧静な湖に小石は落とされる
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ハルは目にかかっていた髪をかけ直そうとすると前から手が伸びてきたのが見えた



その手は髪に触れそのまま頬に触れ髪を耳にかけた。ハルはエルヴィンの思いがけない行動に胸が高鳴った



「髪が伸びたな。」



「そうか?」



心の情態を勘の鋭いエルヴィンに気づかれないように言い返し、自分の横の髪に触れてみせた



「まぁ、結構伸びたかな。」



なんて心臓に悪いことをするんだ。いつもなそんなことしないのに。



「エルヴィンは切った方がいいと思うか?」



エルヴィンにこんな自分の下らない話をしていることに嫌気が差すが何か話をしないと平常心を保っていられない。



「いや、私は切らないほうが好きだがハルがどうしたいかによるんじゃないのか」



「エルヴィンがそう言うなら切らないでおこう。」



ハルはそう話しながら一歩後ろに下がった。でもエルヴィンはそれを見逃さなかった。



むしろその動作で緩んだ襟から鬱血痕がみえた。エルヴィンのその跡に目が奪われた。



ハンジがいってた令嬢の分じゃない、新しすぎる。



昨日か・・・・・。



エルヴィンは浮かべている表情とは裏腹に微かに苛立ちを覚えた




「そうか。・・・・そういえばリヴァイとは仲直りしたのか?」



なんでリヴァイの話を出したかなんてエルヴィン自身確信はない。ただ勘がそう言ってた。



「あぁ、したよ。」



ハルは急に出た『リヴァイ』という言葉にドキリとした。一瞬頭の中で今朝のことを思い出したからだ。



「昨日?」



「うん、久しぶりに謝ったよ。ま、俺が悪かったしいいんだけどな」



とハルは軽く微笑んで見せた。



エルヴィンは昨日のことが頭に浮かんでいた。



昨日リヴァイが急に私に飛びかかったのはハルのことでだ。リヴァイは分かりやすい。ハルのこととなれば感情的になりやすい。



リヴァイはハルに好意がある。それは傍から見ていても分かっていた。きっと気づいてないのはハルくらいだろうか。



「なら良かった。」



エルヴィンはそのままハルの頭に手を伸ばし髪の流れに合わせて撫でた



手の感触が頭に伝わる。脈が速くなり、ついハルは俯いた。



距離に俺に触れてくること。



ハルはどこか違和感を感じていた。



今日は少しエルヴィンの様子がおかしくないか?・・・・いや、思い込みか?



ならダメだ。勘違いしてしまうから、・・・・・無駄な期待してしまう。



そう思ってはいても長年抱いていた好意で嬉しくなる。もっと触って欲しい。もっと近い距離で。



「ありがとな。・・・・じゃあ、俺は食堂で昼にするよ。エルヴィンもきりのいいところで休憩しろよ」



「あぁ、分かった。」



ハルは早々と話し終えると高鳴る胸を抑えながら部屋を出て行った



バタン、



ハルは廊下を早足で歩きながら呼吸を整えて自分を落ち着かせていた



あれ以上あそこに居てはいけなかった。振り切った自分を褒めてやりたい。



そう思いハルは痛む頭を押さえながら大きなため息をついた。



エルヴィンの部屋はハルの微かな匂いを残し、しんと静かな空間に戻った。



エルヴィンはゆっくりイスに座り背もたれに体重をかけた。



指にはハルの髪の感触が残っていた。エルヴィンはその指を見つめ小さくため息をついた。



「やりすぎてしまったか・・・・。」



静寂に満ちた部屋でポツリとエルヴィンの声だけが響いた。
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