碧眼に滴る漆黒

□3.微笑むのは悪魔
1ページ/2ページ











ハルは目を通し終え自分の意見や訂正を所々書き直した書類を片手に団長室の前に立つ



コン、



ワンノック。これは誰であるか示しているのと同じだった



「入れ」



そのエルヴィンの声にドアを開いた



ハルはドアを閉めエルヴィンの机の上、視界に入り邪魔ではない端に置いた



「巨人捕獲作戦時の死者、負傷者、実践内容と改善点をまとめておいた。」



「あぁ。ありがとう」



エルヴィンは今見ていた書類から目を外し、そう言った後再び目を通し始めた



本来エルヴィンは持ってきた書類はすぐ目を通し問題があれば本人に言うがそれをしないのは彼を信用しているからだ



ハルの書類は綺麗にまとまっており、かつ的確に問題点とその対策がまとまっている



ハルは書類をみつめるエルヴィンと机の上の書類の山を見て小さくため息をついた



休憩ぐらいしろっての。



「エルヴィン、少しは休め。」



ハルが誰かを気に掛けることはまずない



補佐官であるハルはエルヴィンにしか気を遣わない。それは立場としてか人間としてか分からないが。



ハルがコップを手に取りとカチャとコップの擦れる音が鳴る



「おい、」



「いいから。紅茶を入れてきてやる」



とハルに念を押されたエルヴィンは見切りのいいところで書類から目を外した



ハルは空になったコップを持ち調理場に向かった



ガチャ



ハルがドアを開けたのと同時にトン、と軽く誰かにぶつかった



丁度昼間なのだから人がいるのは当たり前だ



「わっ、と・・・。ハル補佐官・・・!?ど、どうしてこんなところに」



ぶつかったのはちょうど調理中であったであろう男子兵だ



「あぁ、悪いね。ちょっとお湯を貰いたいんだ」



「どうぞ。いまならお湯がちょうど沸いているので良かったらそれを使ってください」



「ありがとう。」



と何か調理で使おうとしていたであろうお湯を拝借することにした



すると端の方からすぐに女性兵の騒ぎ声が聞こえてきた



「ハル補佐官よ、どうして調理場に・・・?」



「分かんない。でも紅茶を作るのかしら」



「補佐官なのにそんなことするのかよ」



しねーよ、馬鹿が。



とハルは心の中で毒づいた



ハルは手慣れたように紅茶の葉の入れ物をとる



中を見るとシナモンに変わっていた



位置変えたのか。まぁ、俺も最後に来たのは2か月前だしな。



「ねぇ」



ふと視界に入った金髪のまとめた子に声を掛けた



「・・・はい」



その子はどこか無表情な女子兵だった



「前、ここに紅茶の葉あったと思うんだけど。どこに移動したか分かる?」



「前そこに紅茶の葉があったのは知りませんけど、今はここに置いてます」



黙々とした口調で下の棚から箱を出した



彼女の言葉から疑問を感じ胸元を見たら憲兵団のマークをした勲章があった



憲兵?



あぁ、忘れてた。



そのときエルヴィンに新兵の合同訓練が行われてたことを思い出した



「そういえば新兵は合同訓練中だったね。ありがとう」



「いえ、」



彼女はそう短く返すとすぐ自分の仕事に戻ってった



俺は紅茶の葉を摘みお湯を注ぐ



紅茶は濃いめに砂糖は入れない。



紅茶の葉の箱を元に戻し調理場を出た



「君たちも午後から頑張って」



「はいっ!」



出る際にハルが振り向きそう言うと新兵が揃って敬礼をした



視界の端で先ほどの金髪の少女を捕えながら再びコップに目を戻した



あの女の子は確か、前訓練兵を見たときに対人格闘術で的確に尚最小限の負担で相手していた子だ



無関心。どーでもいいって感じか。



団長室の前でもう一度ワンノックをして部屋に入る



エルヴィンは外を眺めていたようだったがこっちを向き申し訳なさそうに微笑んだ



「悪いな」



ハルはあまり音をたてず机の上にコップを置く



エルヴィンは休憩するときは紅茶を好む。それを知ったうえで紅茶をついだ



「いや、お前は声を掛けないとぶっつづけでするだろ?」



とハルは軽く笑いながら机に手を置いた



エルヴィンはハルの入れてくれた紅茶を手に取り楽しむように香りを匂い口につけた



ハルは幾度となく入れたことがあるのに飲まれる瞬間も少し緊張する



「おいしいよ。ありがとう。」



そのエルヴィンの返事に柔らかく笑う



エルヴィンも彼がこの言葉を望んでいると知ったうえでそう答えたのだ



もちろん嘘ではないが言葉にする必要もない



「そう。・・・それよりまたナイルが飲もうって言ってたぞ。たまには付き合ってやったらどうだ?」



「ははっ、そうだな。彼は君とも飲みたいそうだがどうかな?」



ハルは「どうしようかな」と言いながらエルヴィンの後ろの窓の外を眺める



ハルにとってナイルは元上司であり憲兵の中での唯一本音で話せる人間だ



「また憲兵の話をされるぞ」



「それは楽しみだ。調査兵の話ばっかりしてやるさ」



「さぞ、君が惜しかったんだろうね」



ハルは4年前まで憲兵団の一人だったが転職をし前から希望していた調査兵にやっと移ったのだ



希望ではない憲兵に入ることになったのは両親の取り決めだったが今は自らの意志でここにいる。



「特に何かした覚えはないよ。あのころは少し自分勝手だったかな」



「君は今でも自分勝手だろう?」



「ふふ、それは心外だな。」



とエルヴィンは淡く笑うハルの伸びた前髪を右に流す



不意に触れてきた指に心臓が悪い鳴り方をした



エルヴィンを見ると柔らかく笑みを浮かべられた



知られてはいけない。



そう思って俺は微笑み返した








  
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ