GS2

□2009/09/19 針谷
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それをつけることで。


(俺は手に入れられる気がしたんだ)


夢を。


すべてを。


(今、一番欲しいものも)


針谷がかたく目をつぶったときだった。


「あ。それ」


小さな声がして。


顔をあげると、少女だった。


いつのまにか、ライブは終わっていた。


少女は明るくなりだしたライトの下で、針谷の指輪を見ていた。


「買ったんだ?」


「ああ」


「うん、やっぱり似合うね!」


少女がくっきりとした笑顔で言った。


(…っ)


一瞬、針谷の息がとまって。


でもすぐにニヤリと笑った。


それはいつもの自信に満ちた顔。


「オレ様なんだから似合うなんて当たり前だってーの!」


少女の瞳が大きく開く。


そして嬉しそうな顔をする。


「うんっ」


もっともっと笑う。


眩しい思いでそれを見ながら針谷は心でささやいた。


(お前の言葉は魔法だ)


たった一言が針谷の行動を決めて。


ふいの質問は内面を見透かしているようで。


(俺はいつだってお前に負けっぱなしだよな)


でも、と思った。


「俺さ、この指輪に願いをかけたんだよ」


少女をまっすぐに見つめる。


「願い?」


「ああ」


「どんな?」


少女が針谷を見上げる。


視線をからませるように固定しながら針谷が言った。


「恋が叶いますようにって、さ」


「恋…?」


「そ。こうやって一緒にライブに来てくれる相手が俺を見てくれますようにって」


「一緒に…」


「隣にいる女が俺のものになりますようにって」


「!?」


そこでやっと少女は状況がわかったようだった。


針谷が恋をしていて。


その相手が自分だと。


「う、うそ…」


頬が真っ赤になって。


くちびるを両手でおさえて。


それでも瞳をそらさない姿は、もう答えを針谷に伝えているようだった。


ふ。


針谷がほっとしたように笑う。


「…本当に、最強アイテムだな」


指輪が勇気をくれた。


ずっと伝えたかったことを言わせてくれた。


そして、もう一言。


「好きだ」


真摯に告げて。


少女の手にそっとふれて。


「答えは?」


揺れた相手のしなやかな体に一歩ちかづいた。


「あ…」


少女が瞳をうるませながら針谷を見つめる。


桃色のくちびるを開く。


「私も、ハリーのこと…」


指輪が。


願いをかけた指輪が。


色とりどりのライトを浴びて、七色に光っていた。


それはもう誰が見てもシンプルとは表現できず。


所有者は。


たった一人だけ。


お前が欲しい、と。


強く願った針谷だけだった。



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